【BOOKWARE】
ぼくの編集的世界観は30代に、ごくごく小さな二つの因子の動きを丹念に追ってみたことに始まった。ひとつは「素粒子と分子の動向」で、ここからは光と物質の関係やRNAや葉緑素から生まれていった生命観や、自然を構成するコスモロジーの大要が理解できた。もうひとつが世界中にちらばる「文字の変化」を追うことだった。こちらは歴史観や民族観や言語観が瑞々しくカラダの中に入ってきて、ぼくの編集的表現感覚の基礎を養ってくれた。
文字は記号であって図標であって、意味である。それとともに記録であって契約であって、つまり歴史そのものなのである。文字がなければ物語が保存できなかった。しかし文字はまた絶叫であってラブレターであり、希望とも悲嘆とも怒号とも告白ともなった。われわれの文明と文化は文字によって情報を読めるようにした。