【BOOKWARE】
ぼくがエディターのプロになるために、若い頃から配慮してきたことがある。それはありとあらゆる「情報表示」の仕方にできるかぎり目を配ることだった。5W1Hを書くニュース記事をこなせるだけではモノ足りない。たとえば次のような分野や領域の独得の「編集力」に注目しておくのだ。
医者の処方箋の書き方、映画や演劇のプロット表示、プログラミングの記述法、昆虫採集用語、株の相場用語の使い方、メカトロ機能の説明法、薬剤の効能表示、戦争戦闘についての軍事的記録法、麻雀用語、野球やバレーボールなどのスコアブックの付け方、数理論理学の記号表現、食品表示、競馬新聞や競輪新聞の省略記述の仕方、短歌や俳句や邦楽の常套表現、レシピの表現、バレエやダンスの記譜法…。
とくに競馬新聞が馬体・馬主・騎手・馬場状態・過去記録などを、みごとな省略語でまとめている「編集力」には、つくづく敬服してきた。「予想」というものがどれほど情報を集約しなければ成立しえないのか、それでもなお「欲望」はその情報集約の果てに散っていくものなのか。たった十数センチ角の新聞の短評がもたらすドラマには、汲めども尽きない「編集力」が秘められている。では競艇はどうなのか、一度は見てみたかった(競輪は見てきた)。