しかし文字には「書ける」ということも必要だった。つまり文字は「体の動き」にもとづくパフォーマティブな記憶も伴っていたのである。イスラム諸国がアラビア文字が右から左にローリングする文字を書き、中国・朝鮮・日本が気息と気配を重んじた書道を文化としているのは、文字文化の最後の真骨頂なのだ。決して廃れさせてはいけない。
【KEY BOOK】「文字の歴史」(スティーヴン・ロジャー・フィッシャー著、鈴木晶訳/研究社、4104円)
文字の種類と歴史を追った本はいろいろあるが、文字の変化を思想化しているものは多くない。本書はその試みを最も広範に、文字の誕生と変遷の“現場”に降りながらまとめた。言語学の知見も採り入れている。文字はタイムマシンなのである。記号・かたち・声・ことば・意味・時代・民族・風俗・権力者・交易・神話を抱え込んでいる。ときどきは電子フォントから離れてみたほうがいい。