東日本大震災5年 「あの日」そして「いま」(4) 天国の母や祖父母に勝つ姿を

 
東海大1年生の野村華子さん。「柔道を頑張ることが母への恩返しになると思う」=2016年2月22日、神奈川県平塚市の東海大学(松本健吾撮影)

 ≪岩手県釜石市 野村華子さん(19)≫

 「この5年間、3人のことを忘れた日はありません。3人の存在が、いま柔道を頑張れる源になっています」

 中学2年の時、津波で最愛の母と祖父母を失った。東海大学女子柔道部(神奈川県平塚市)1年の野村華子さん(19)は朝の練習を終えた武道館で話してくれた。

 岩手県釜石市に住んでいた。あの日、学校で激しい揺れに襲われ、みんなで高台に逃げた。眼下では真っ黒な波が家を次々と押し流していった。自宅も流された。数日後、避難所で父、亨平さん(63)から母の洋子さん=当時(45)=が亡くなり、祖父の亘さん=当時(82)、祖母のキワさん=当時(80)=とも連絡が取れないことを聞いた。しばらくして、2人も亡くなったことが分かった。

 父と兄の姿を見て小学5年から柔道を始めた。「練習はきつかったけど、技を覚えるにつれて強くなるのが楽しかった」。洋子さんも、忙しい仕事の合間に大会に駆けつけてビデオ撮影をしたり、体力がつく食事を作るなどしてサポートしてくれた。

 大好きだった柔道が、震災直後はできなくなった。夜、母が津波に苦しむ夢を度々見た。加えて、中学校は津波で全壊、近くの道場も避難所となり練習ができなかった。津波のことばかりを考え、心が不安定になった。

 「悲しんでばかりいても、お母さんは浮かばれないぞ」。父の言葉が胸に響いた。震災の翌月、つてを頼って内陸部に転校し柔道を再開。柔道に打ち込むと、少しずつ心の平穏を取り戻していった。高校は仙台市の強豪校、東北高校に入学、2年のときには全国大会で3位になった。

 最近、母と一緒に買い物に行く夢を見る。そのなかで母は笑っていた。「やっとお母さんも天国に行って、成仏できたのかなと思う」

 「まずは日本一が目標。天国の3人に柔道で勝つ姿を見せたいんです」。力強く宣言した。

 ≪岩手県大船渡市 新山陽日(はるか)さん(11)≫

 「あの日のことはちゃんと覚えています。保育園の遠足でした。大船渡駅から電車に乗りました。電車に乗るのは2度目です。電車の窓からは海や家が見えました。おさかなセンターで、サケの切り身をお土産に買ってから保育園に戻り、お昼寝中にあの地震が来ました。もっと高いところにある小学校へと避難しました。そのとき、屋根が流されているのを見ました。津波は来るものだといつもおばあちゃんから聞いていたから、そんなに怖くはなかった。大好きだった大船渡の町が元に戻ってほしいです」

 ≪福島市 森山寿子さん(40代)≫

 「原発事故直後の2011年5月から8月まで約3カ月間、大阪府高槻市の妹の家に、夫を残して避難しました。当時は情報が不足していて放射線に対する不安があり、食品や外出に気を使いました。今は普段通りの生活をしていますが、以前より人通りが少ない気がします」

 ≪宮城県南三陸町 高橋英さん(11)、阿部舞さん(16)、高橋長宇(8)、高橋莉子さん(16)、千葉航洋さん(16)≫

 「南三陸町の仮設住宅からバスなどを乗り継いで片道約2時間かけて石巻市内の高校に通っています。通学はもう慣れました。高校でいろんな人に出会えて楽しいですね」(莉子さん)、「震災で失うものもあったけれど、震災を通して自分があると感じています。みんなのため、この町のために地域の高校生の団体に入って、南三陸の店のいいところを紹介する活動をしています」(舞さん)

 ≪宮城県名取市 平間直人さん(40)≫

 「宮城県農業高校ボクシング部の顧問をしています。津波で練習場を失った生徒たちは現在も仮設校舎脇に建てられた農業用ビニールハウスのリングで練習を積んでいます。ハウス内の温度は夏場には40度を超えることもあり、良い環境で練習させてあげたいのですが、時間は待ってくれない。今ある環境で精いっぱい練習して青春を満喫してほしいと思っています」

 ≪岩手県陸前高田市 長田正尚さん(81)、正広さん(50)、拓也さん(24)≫

 「津波で、店舗兼住宅は流されてしまいましたが、震災から7カ月後に、周囲の後押しで仮設店舗を再開しました。息子は昨年9月、大学院を中退して戻ってきてくれました。家財は全て失い、家の基礎しか残りませんでしたが、伝統の味、愛された味は流されません。ずっと守っていく覚悟です」(「四海楼」経営)

 ≪盛岡市 曽我こなみさん(20)≫

 「盛岡の企業に所属し、午前は接客、午後はスケートの練習という毎日を送っています。震災から2年後、岩手県田野畑村に住む祖母を訪ねたときに、津波の影響で街の様子が一変したことを知って驚きました。今年1月、岩手国体に出場し、お客さんの声援が温かくて本当に力になりました。長野県出身の私を、皆さんが結果にかかわらず受け入れてくれた。会場が一つになっての声援が忘れられません。今の目標は岩手を背負っての平昌五輪出場です」(スケート選手)(EX編集部/撮影:写真報道局 植村光貴、大西史朗、鴨川一也、川口良介、鈴木健児、松本健吾/SANKEI EXPRESS