例えばエジプト内乱に火を付けたチュニジア政権崩壊。政権を追われ亡命したジン・アビディン・ベンアリ大統領(76)は、元は陸軍大将で穏健な社会主義者ではあったが1988年、アラブ諸国初の拷問等禁止条約批准国となるなど、曲がりなりにも民主化を進めた。政府/党分離や大統領選挙実施もベンアリ氏の決断だった。フランスの社会政治研究センターは氏に《民主主義・人権国際賞》を贈っている。
23年以上政権を維持した末、高い失業率や物価に対する国民の不満が噴出し、2010年末から全土で大規模退陣要求デモが起きる。当初は民主的手法で乗り切ろうとしたベンアリ氏だったが結局、陸軍参謀長に国民への発砲を命じる。だが、参謀長は拒み「あなたはもう終わりだ」と引導を渡す。
しかし、チェニジア大統領は《軍の最高指揮権》《閣僚の任免権》を有する。明らかに、軍に対する政治の優位が無視された。日本の左翼の常套句(じょうとうく)「文民統制の崩壊」である。それでも国民は、デモ弾圧を続けた内務大臣所管の治安部隊とは対照的に、軍を称(たた)える声が大きい。
インドの悲劇
逆の悲劇も起こっている。