「民主主義の暴走」が全体主義を招いた反省から、ドイツでは野党が内閣不信任案を提出する際には、後継首相を指名しなければならず、しかも新首相支持が過半数に達しなければ不信任案を可決できない。戦後の独首相はわずか8人。民意の制限により、欧州では突出して政治が安定している。
ところで、意図的に流す嘘《デマ=デモ》は本来《民衆》の意。デマを真実の中にちりばめれば語源《デマ・ゴギー=民衆扇動》を生む。民衆を操り支配するのが《デモ・クラシー=民主(衆)政治》である。この構図こそ、ワイマール体制崩壊に至る悲喜劇の脚本ではないか。
ただし、民主党ができもしない大言壮語で、自民党から支持を剥奪していく過程は似て非なる悲喜劇。ヒトラーの才気は尋常ではなかったが、民主党政権誕生は暗愚な政治家と衆愚が互いに作用しあった、実(げ)に恐ろしき危険な組み合わせだった。一方エジプトでは、民衆の間に厭戦(えんせん)気分が高揚しつつある。
民主党政権誕生も内乱も、民衆自らが選び刻んだ「ほんの少し前の歴史」だったことなど、もはや忘れたかのようだ。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)