ところが戦意・錬度に乏しい中国軍の一部若手将兵は、パニックで持ち場放棄など命令外の行動に…。日頃親しむ《戦争ゲーム感覚》で、実戦をバーチャル・リアリティー=仮想現実と錯覚すれば、狂気が炸裂(さくれつ)…。
軍艦における各部署のチーフは准士官や下士官、場合により下級士官だが、中国海軍の場合、一部は小皇帝ら「新人類」が担っている現実を考慮に入れる必要がある。准士官や下士官の質の向上(=プロ集団化)を図っているものの、前述したFCR照射が《軍紀・軍律の弛緩》に起因するのであれば、パニックや“ゲーム遊び”の結果-という推論は残るのだ。
一人っ子世代ではないが、指揮官の命令だとしても問題だ。「精強な海自に撃たれる」と妄想し照射を命じたのなら、ロックリア提督の指摘通り、明らかに指揮経験と演習の不足。中国海軍同様海自も実戦経験はないが、ソ連海軍相手の実任務や米軍を敵に回しての演習が豊富で、互角以上の「戦果」をあげてきた。海自の実力を知っていて、恐怖心で前後不覚になる指揮官がいても不思議ではない。
ところでシリア内戦で、政府軍側の化学兵器使用なら劣勢挽回を急いだ焦りの証左。反政府軍側なら、圧倒的戦力差を埋めようとした《弱者によるリーサル・ウエポン=最終兵器》と位置付けられる。弱さで定評(反証アリ)のイタリア軍も第二次エチオピア戦争(1935~36年)で、苦戦すると毒ガスを使用した。
こうしてみると、精強な中国軍誕生もわが邦の国益を損なうが、家康が忌み嫌った「臆病者」も実(げ)に恐ろしい。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)