「土石流が発生してホテルや家屋が浸水しています! 避難を指示した方がいいでしょうか?」
10月16日午前3時15分。東京都大島町の川島理史(まさふみ)町長(61)は、出張先の島根県隠岐の島町にいた。静まり返ったホテルとは対照的に、受話器から切羽詰まった声が耳に響いた。電話の主は約600キロ離れた大島町で、実質的な責任者として猛威をふるう台風26号と対峙していた総務課長だった。
町のトップ不在
川島町長は避難勧告を見送った。「深夜に無理に避難させれば被害拡大につながる」。その判断を待っていたかのように、5分後には大金沢(おおがなさわ)が氾濫した。原田浩副町長(61)も東京都檜原村(ひのはらむら)に出張中で、トップ2人が不在の中、職員らの対応は、防災無線での注意喚起にとどまった。2人が自衛隊機などで島に戻ったのは16日夕。多くの住民が土石流にのみ込まれてから半日以上もたっていた。