しかし、この食べ方を日本で初めて考案したというプライドにこだわらない接客第一の精神が素晴らしい。歴代の主人が培ってきた「お・こ・し・や・す」のスタンスを随所に感じ、料理の味の深みがいっそう増すようだった。
伝統調味の割り下で下味を整えた「焼きにこだわる」すき焼きコースも人気。記者はお手軽なすき焼き弁当をいただいたが、「甘みを抑えた上品な味」は、上質の牛肉とマッチし、意外なほどあっさりした食感で、箸を休める暇もなく平らげた。お昼のメニューだが、本格的なしゃぶしゃぶ、すき焼きコースの入門編といったところか。
ユニークな店名の由来は歌舞伎好きだった初代にあるとのこと。有名な「忠臣蔵」は演目が十一段目まであり、「店舗にほど近い南座で歌舞伎を観劇したあとの十二段目は、当店で」との思いだったとか。
魅力は数多いが、やはり“開放された美術館”のなかで楽しめる究極の食事に勝るものはない。初代は大阪・難波で書店を営み、多くの文化人らと親交があったという。さらに、戦後は吉田茂(1878~1967年)ら著名な政治家も会合の場として利用していたという逸話もある。