そのマンションの7階に住んでいた私は、それまで神宮前の寂れた商店街にある古アパートの3階暮らしだったため、とにかく急に視界が広がったように感じた。大通り沿いへ越して来たということもあったのだろうけれど、地域の小さなコミュニティーの中でひっそり暮らしていたところから一気に都会へ放り込まれる感覚だろうか。慣れずに元いた商店街の方へばかり足を向ける時期が長く続いた。
隣室に店員らの「異国」
13階建てのマンションの7階である。まずどれだけの人間がこの建物の中に暮らしているのか判然としない薄気味悪さ。それまでは隣人と言えばハッキリと知り合いで、それは姉の同級生家族であったり、猫と暮らしているカップルであったりしたのだけれど(その古アパートは1つの階に3世帯しか住んでいなかった)、母が不在のときなど、そうした隣家に遊びに行くことも自然で、家の前の狭い路地の植え込みや小さな空き地で虫などと戯れていれば、誰かしら時間が許せばかまって相手をしてくれたりしていた、そういうものが私にとって隣人というか、暮らしというものだった。