ところが同じ階でさえどんな人間が暮らしているかわからない。ましてや、S飯店さんには申し訳ないのだけれど、少年の私にとって突然大勢で隣室に引っ越して来る中国人は奇怪なばかり、廊下にはいつも香辛料の匂いが漂うようになり、母は何だか仲良くやっているようだし、お店でご飯を食べるときには美味しいから良いのだけれど、とにかく一歩向こうは大陸のような、異国の人があまりにも間近で暮らしているということもまた、路地世界ではない、開けた大通り世界での落ち着かなさを加速させた。
奥の3畳間で聞いた花火
また極端に窓の少ない室だった。殆ど北向きの西面にだけベランダと小さな窓があってそれだけだった。けれどベランダはあくまでベランダで、洗濯などで使うばかり。また窓のある部屋は物置のような3畳間だった。私は外を眺めるのが好きだったので、マンションの裏にひっそりとある、まるで陽の当たらない、しかしそれなりに立派な、鯉が泳ぐ池つきの庭を覗(のぞ)き込んだりしていた。