戦前の日本もそれと同じで、現在の日本と中国との関係にもそれが影響している。たとえば、1911年の辛亥革命100周年に当たる一昨年、筆者は中国中央テレビの依頼で記念番組の制作に協力し、福田康夫元首相とも対談した。辛亥革命は日本の政財界の協力によって孫文が主導した社会改革であった。しかし、その後の満州事変への対応で軍部の不興をかった犬養毅首相(1855~1932年)が陸軍青年将校に白昼、総理官邸で銃殺される(緒方貞子著『満州事変』を参照)。
その後、軍は中国の内情を部外秘にして情報統制を敷き、犬養を暗殺した首謀者も禁錮15年に処されただけであった。確かに歴史はいかようにも解釈できるが、当時の軍部による情報統制が現在の日中の歴史認識の齟齬を招いたという側面ば否定できない。
いかなる情報も、一定期間後には公開されないと、私たちは歴史から正しい教訓を得られない。それは、国民の幸せや国際平和の実現の障害となり、自分の将来を決める判断材料も持てなくなってしまう。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS)