「伝えたいのは、スポーツを通して見た、福島の現実なんです」。ルポライターの岡邦行さん(64)の言葉だ。岡さんは6月、福島の子供たちとスポーツをつづったルポ「南相馬少年野球団」(ビジネス社)を発売した。
岡さんは、福島県の南相馬市出身。中学からテニスを始め、県立原町高校在籍中には、インターハイにも出場したほど打ち込んだ。法政大学卒業後、都内の複数の出版社を経てフリーライターに。スポーツを中心に政治や芸能まで幅広い分野を取材した。
そんな時、東日本大震災が発生。2カ月後、足を踏み入れた故郷にはがれきが積み上がり、東京電力福島第1原発事故の影響で外で遊ぶ子供の姿はなかった。かつて海水浴を楽しんだ海は、松林がなくなり景色が一変した。「牧歌的な風景がメチャクチャになった」と感じたという。
震災半年後、飯舘(いいたて)村の小学校の教頭を勤める知人の話に原発禍のスポーツの取材を決意した。避難先の体育館が使えることになったとき、鬼ごっこを始めた児童がうまく相手をよけられず、次々にぶつかった。廊下で正面衝突してしまうことも。「自由に遊べないことや避難生活での栄養不足が原因なんです。運動や遊びをしながら体をつくる大事な時期なのに…」