叱ってくれた母
私の中でも翌年に控えた96年アトランタ五輪が見えていた。しかし、当時の私は、思春期の真っただ中でもあった。好記録をマークしたことで、ただ速いだけなのに、「私は偉いんだ!」と勘違いしてしまうようになった。反抗期でもあり、家族に反抗することはなかったが、スイミングクラブの指導者に生意気な態度を取るようになった。好記録を出したことで心は完全に浮ついた状態に。そして事件は起こった。
練習に集中していない様子を見かねた指導者から、「そんな泳ぎをするなら、家に帰れ」と怒鳴られたのだ。普通なら謝って気持ちを引き締めるのに、私はすぐにプールから上がると、「ラッキー!」とそのまま帰宅したのだ。
いま思い返しても、とんでもない反抗期だ。そんな私のいつもより早い帰宅に、母からは理由をしつこく聞かれた。自分自身が悪いことは百も承知なので言いたくなかったが、最後は白状するしかなかった。
すると、母は私の練習かばんを玄関の外へ投げ捨てて、私の背中を外へ押し出した。そのまま玄関のカギを閉められ、「コーチに謝ってこないと、家に入れない」と叱られた。私は泣きながら、クラブに戻り、謝って許してもらった。あの時、母が叱ってくれなかったら…。勘違いした“天狗(てんぐ)”は、自分自身を見失い、夢まで見えなくなっていたはずだ。