そう、逃避めしは自分一人のための料理だ。みてくれも、味の偏りも、気にしない。すべて自分のためだけにつくりあげる箱庭のようなもの。料理というものが「誰かのために」という文脈で語られることが多いのに対して、このわがままさと、ていたらくの極みは異端であり、食の本の突端ともいえる。兎角、自分のわがままが聞き入れられる場所なんて、齢を重ねて背負うものが増えるほど、どんどん小さくなってしまう。そんな哀しみをぶつける心のネバーランドを彼の逃避めしにみつけてしまうのだ。
「あるものでなんとかする」美徳
一方、同じく吉田戦車が現在連載している『おかゆネコ』(3)は、小さなビール会社の営業マン・菊川八郎のために毎度ネコがおかゆをつくるというマンガだ。「しゃべり病」という奇病にかかったツブという名のネコが主人公。動物が突然しゃべり出し、知能も人間並みになるというのだから、わけがわからない。そのツブが偶然居候することになった八郎は30代の独身男性らしく、不摂生を重ねまくっており、当然のことながら料理らしいものもしていない。朝食もまともに摂らず、過労もたたってバタリと倒れ込む八郎。そんな時、ツブは八郎にいうのだ。「おかゆでも煮てやるよ!」