そう考えたとき、齋藤が障害者プロレスを経て写真の世界に入ってきたのもよくわかる。彼にとって身体は、世界と接触するために、もっとも頼りになる原点のはずだから。でも、身体の確かさに頼り切るのではない。むしろどんな表現者も、このとてつもなく大きな世界を前にしては、瞬時に組み伏せられ降参するしかない。齋藤の写真はそのことを知り抜いている者だけが知る切なさと秘密を込めて写されている。(多摩美術大学教授 椹木野衣/SANKEI EXPRESS)
■さわらぎ・のい 1962年、埼玉県秩父市生まれ。同志社大学を経て美術批評家。著書に「シミュレーショニズム」(ちくま学芸文庫)、「日本・現代・美術」(新潮社)、「反アート入門」(幻冬舎)ほか多数。現在、多摩美術大学教授。