こぎん刺しの模様には単位模様と、それをつないで作る連続模様があります。単位模様には「花こ」「豆こ」や「猫のまなぐ(猫の目)」という身近なものを図案化したものが多く、模様の間に、つなぎ図案を入れ複雑なデザインを表現することもできます。北国の長い冬、農村の女性たちは、手仕事をすることで温かくなる春を待っていたのでしょう。限られた素材、色の中で、創造力を駆使し、さまざまな模様を生み出し、自分らしい世界観を表現してきたのです。そして、白い糸が汚れてくると藍に染め直し、糸を刺し重ねたりと、ものを大切に使い続ける工夫も加わっていったようです。
しかし、明治の声とともに、この素晴らしい伝統は廃れていき、昭和初期の民芸復興まで忘れ去られていました。伝承の技を絶えさせてはならないと、農家に残された着物などを探し集め、正しい「こぎん刺し」を広める作業を始めたのが「弘前こぎん研究所」です。現所長の成田さんは「もともと口述でつがれた技術。もしこの時に収集、整理されることがなければ、今頃は博物館でしか目にすることができなかったかもしれない」と話す。現存する古い作品や、図案の意味を紐解(ひもと)いていくと、厳しさの中で強くたくましく生きてきた東北人の遊び心のセンスが、垣間見られるように思えます。