人間が生きるということは、しかし、そういうものではないのだ。この、小説を読んだいま私は、ただ人が歩いている、その風景が違って見えるように思える。人の姿の美しさを感じる。本来は表面しかないはずのポップなむなしさの向こう側に、その人の姿の美しさが見えるように思う。はは、思う。あたりに見苦しく散らばった脳ミソを拾い、割れ目から押し込む。電流が流れる。また、読む。また、おかしくなる。痺れる。(元パンクロッカーの作家 町田康、写真も/SANKEI EXPRESS (動画))
■まちだ・こう 1962年、大阪府生まれ。81年、町田町蔵名義でパンクバンド「INU」のボーカリストとしてデビュー。96年には町田康として処女小説『くっすん大黒』(文芸春秋)で文壇デビュー。2000年に『きれぎれ』(文芸春秋)で第123回芥川賞受賞。近刊に猫との暮らしをつづった随筆集『猫のよびごえ』(講談社)。
■「渡良瀬」(佐伯一麦著/岩波書店、2310円) 茨城県西部の町にある配電盤製造の工業団地が舞台。元電気工の28歳の青年は、一工員として働き始める。1993年から96年にかけて連載されていた未完の作品を、20年の時を経て完結させた。