「金が欲しい時だけ」と言いながら、カードはATMの中に吸い込まれていった。
カードがいなくなり、その人は不安に襲われた。カードの居場所が気になって仕方なかった。財布から落ちて、今ごろどこかのゴミ箱に紛れ込んでいるならいい。だがもし、カードが自分以外の別の誰かのものになっていたら。
心当たりが1つだけあった。2日前に来た引っ越し業者のことだ。あの引っ越しの時、その人は財布を入れたバッグをリビングに置き、何度か目を離してしまった。まさかあんな限られた空間で、堂々と人のカードに手を出す人間がいるなんて思いもしなかったのだ。
その人は、青年たちの顔を思い浮かべた。本当にあの子たちの中の誰かが、自分からカードを奪ったのだろうか。信じられない。言葉巧みに唆(そそのか)し、自分をあっさり捨てるようにカードに吹き込んだのだろうか。それとも、引っ越しのどさくさにまぎれて逃げ出すことはもっと前から決まっており、自分だけが何も知らず、彼らに缶コーヒーを振る舞っていたのか。