3Rに左太ももの裏がけいれんすると、臨機応変、足を止めて打ち合いに誘い込み、勝ちきってしまうのだから、恐ろしいばかりの20歳である。左よし、右よし、頭よしで、どうやら死角らしきものが見当たらない。しかし、アマで高校7冠の実績があるとはいえ、4戦目で日本王者、5戦目で東洋太平洋王者、6戦目で世界王者という、あまりの順風満帆ぶりに落とし穴はないのか。ちなみに日本初の世界王者、白井義男は44戦目、19歳で戴冠のファイティング原田でさえ28戦目だった。
階級も団体も少なかった昔と比べることに意味はないのかもしれないが、オールドファンなら嫌みの一つもいいたくなるところだろう。
だが、単純にボクシングをみる限り、この20歳の若者には明るい前途しかないようなのだ。彼には国内外の強豪と、次々に拳を交えてほしい。
≪「肉を切らせて骨を断つ」 31歳、接近戦制す≫
井上を評する格言が「左を制する者…」なら、八重樫東(あきら、大橋)のそれは「肉を切らせて骨を断つ」だろう。