31歳の苦労人、元WBAミニマム級世界王者だが、2012年6月に井岡一翔(かずと、井岡)との2団体統一戦で敗れ、昨年(2013年)4月にWBCフライ級で2階級制覇を果たした。ジムの後輩、井上にメーンイベントを譲ってこの日が3度目の防衛戦。ミニマムから数えて実に7度目の世界戦でもあった。
井上が天才、華麗、派手であるなら、八重樫のボクシングは不器用、地味であるかもしれない。だがパンチを当てるために相手に近づく勇気がある。この日も序盤は挑戦者のオディロン・サレタにポイントを奪われながら、前へ前へと出続けた。
自らの腫れた顔面は、敵に手を出させるために差し出した果実のようでもあった。打たれる、前に出る、打たせる。そして打つ。その繰り返しだ。さすがに試合巧者のサレタも根負けした。9回に八重樫の左フックがカウンターでサレタのアゴをとらえると、連打から右のアッパーでリングに沈めた。