あのドキュメンタリーでカメラが追うのは、長年の全国移動で痛めてしまったバンドメンバーの体ではなく、移動車を飛び出して彼らがチョウチョウを追いかけている姿だ。売り上げを出すために自ら行うグッズ販売の様子なんかどうでもいいから、彼らが自分たちの音楽を手放さずに続けてこられた奇跡を、小鳥たちが取り囲んで祝福している昼下がりを映せばよかったのだ。エンディングには、売れたその後、自分の音楽に見捨てられてしまい、廃人同然になったミュージシャンのアップを挿入して終わらせればよかったのに。貧しいドキュメンタリーのせいで、いつまで経っても怒りがおさまらない。何かが乗り移り、夜中の3時に、私は地団駄を踏みながらダンスを踊っている。(劇作家、演出家、小説家 本谷有希子/SANKEI EXPRESS)
■もとや・ゆきこ 劇作家、演出家、小説家。1979年、石川県出身。2000年、「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。07年、「遭難、」で鶴屋南北戯曲賞を受賞。小説家としては短編集「嵐のピクニック」で大江健三郎賞を受賞。最新刊は「自分を好きになる方法」(講談社)、「ぬるい毒」(新潮文庫)。