現在共演させていただいている女優のMさんにアポリネールの本をプレゼントする。アポリネールなんていう猥褻(わいせつ)なたぐいの本を女優さんに貢ぐなんていうのは下心見え見えで破廉恥だといわれてしまうのかもしれないが、Mさんは彼のエロスを十分に楽しめる大人の女性であり、そもそも異性にプレゼントという行為自体がそれなりにいやらしさを伴っているわけで(同性でも別のいやらしさは伴う)、いっそ男女をくっきりと匂わせるツンと酸味の利いた品、ないしはロマンチックな品々を交換し合う方が潔く健全である。何処(どこ)までも男性は男性であり、女性は女性である。性差をなあなあにするのは、私は好かない。差別の話ではない。女友達はいるが、あくまで異性の友達であり、同性の友達とは違う。違うのだから違うままでいていいし、その方が自然ではないかということなのだが。
「どちらかにキスをしろ」
幼いころの記憶の中で格別美しいものの一つに、樹木の中の情事、がある。当時私は園児である。私とF男は同い年のY子に興味津々であった。或(あ)る日、あれはバレンタインではなかったかと思うのだけれど、近くに住んでいた3人はわいわいと、近所の小さな保育所の庭にあるお化け大木のそばで遊んでいた。