いかんせん幼稚園児のお遊びなので、以後Y子との関係がどうなるとか、F男が不必要に翌日も騒ぎ立てたというようなこともなかったと思うのだが(とするとF男もそれなりにY子に本気だったという可能性もはらんでくる。記憶の断片を探るのはこれだからやめられない)、以降私にとってそのお化け大木は、すっかり甘美の樹木と変わり、あれから暫くは、誰にも気付かれぬようそおっとその樹の中に入って目を瞑(つむ)り、あの夕暮れ時を夢想した。
それからすぐに私は引っ越してしまい、大人になって辺りを散歩していた際には保育所ごと姿を消してしまっていた。
プレゼントが持つスリル
私の記憶の中では、あれはY子からのバレンタインのプレゼントであり、やっぱり男女のやりとりとはこうしたスリルを伴って然るべきなのだと改めて思うのだ。そして今となってはこうした素晴らしい記憶を無邪気に贈ってくれたF男に心から感謝しているのである。アポリネールは私のこの樹木の中の幼い情事を嗤うのだろうか。アポリネールを読み終えたMさんに、いつか聞いてみたいものである。(演出家 長塚圭史/SANKEI EXPRESS)