多彩な作品を生み出してきた作家の伊藤たかみさん。「今回、ぬるぬるした性の部分が出てきたと言われた。そういう部分を自然に書けたらいいな」。早くも今後への意欲をにじませた=2014年4月17日、東京都渋谷区(野村成次撮影)【拡大】
「形見って、時間とともに変化するものだと思うんです。知人が祖父の形見で高級時計を持っているんですが、若いうちは高いからバンドすら替えられない。大人になって、バンドを交換して、『やっとじいちゃんに追いついたな』と言っていた。形見によって、死者が『まだ生きている』と思わされる。今回は、食べ物なので特にその変化が如実ですね」
デビューから19年。着実に足跡を刻み続けてきた。「小説は絵を描くことと同じ。1つの絵には、全ての色は使えない。全部のトーンの色を試してみたいんです」。次は、どんな色をみせてくれるのだろうか。(文:塩塚夢/撮影:野村成次/SANKEI EXPRESS)
■いとう・たかみ 1971年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。95年、『助手席にて、グルグル・ダンスを踊って』で第32回文藝賞受賞。2006年、「八月の路上に捨てる」が第135回芥川賞受賞。著書に『17歳のヒット・パレード(B面)』『卒業式はマリファナの花束を抱いて』『ロスト・ストーリー』など。
「ゆずこの形見」(伊藤たかみ著/河出書房新社、1620円)