ゴルバチョフ氏の別荘は観光地として整備されておらず、近くに売店やレストランがあるわけでもない。しかし、ソ連崩壊後の激動の歴史を振り返るにつけ、別荘を見渡す丘に来れば、きっと多くの人々がさまざまな思いを巡らすに違いない。
もともとクリミア半島は古代ギリシャ時代に植民都市が造られてから、歴史の表舞台に登場した。その拠点であった、現在のセバストポリにあるヘルソネス遺跡は一昨年、世界遺産にも認定された。15世紀からはチンギスハン(1162?~1227年)の末裔(まつえい)が国を作り、イスラム教文化も栄えた。19世紀のクリミア戦争では激戦地となり、英国の従軍看護婦、フローレンス・ナイチンゲール(1820~1910年)が負傷した兵士を助けた。
そして今。ロシアのクリミア併合は21世紀の世界秩序の枠組みを大きく変える端緒になるとも予想されている。いつか平穏が戻った時、人類の歩みを自分の目で、自分の足で体感してほしい場所なのである。(佐々木正明、写真も/SANKEI EXPRESS)