もちろん1531年の奇跡も、彼にとっては「地球が丸い」と同じくらいまぎれもない真実だ。当初は奇跡は奇跡として捉えていた私も、信者のウリセスと一緒にまわり、知識を深めていくと、信じない理由がなくなってきた。なにより、対象にかかわらず、何かを真っすぐに信じている人には、芯がぶれない強さがある。こんなにも数百年前の言い伝えを熱弁する男性と、多くの信者に囲まれると、私も信じた方が無難だし、幸せになれる気がしてきた。
≪「OH MY GOD」 自ら考える力を≫
ウリセスは、3日間の巡礼を終え広場で寝ていたら、荷物を全部盗まれたという。とんだ災難だ。でも彼は穏やかな表情で「大丈夫」と、12月12日を祝う幸福の方が、盗難被害の悲しみより上回っているようだった。
もちろん、この宗教的お祝いに否定的なメキシコ人もいる。ジャーナリストの友人ホセは、大勢の信者が祈りをささげる華やかな光景をテレビで見ながら「OH MY GOD」と嘆く。「こうやって盛大な式で人々を魅了し、マインドコントロールして、大衆の考える力を奪うんだ。宗教は民衆を抑えるための手段になり下がったから、メキシコの政治は腐敗したんだよ」と。