キューバ政府は、公務員を削減して自営業者の拡大をはかり、民間の経済活動を活発化させる規制緩和政策を推し進めている。そして私は、この政策の一番象徴的な光景に出合った。
世界遺産に登録され、観光地として人気が高いキューバ中部のトリニダ。外国人観光客を乗せたバスの到着時間が近づくと、お手製の段ボール看板を持った宿の客引きが、ターミナルと一般道を区切る、細いたこ糸のようなひもに沿って整列する。そして、乗客がバスからはき出されると、「こっちこっちー!」、看板を頭の上に掲げ、大声で呼び込みが始まる。こんな景色、アジアの観光地でしか見たことがない。
宿泊した民宿のオーナーの話によると、以前は数えるほどだった「カサ・パルティクラル」と呼ばれる民宿が、今では100軒は超え、毎日のように客の争奪戦が繰り広げられるという。そんなオーナーも、間貸し歴はほんの数カ月の新人さん。「バス移動で疲れている旅行者に群がりたくはないけど、他の人がするから仕方がない」。眉間にしわを寄せて、彼はがっちりとした大きな肩をすくめる。数年前まで闇営業していたロブスターが名物のレストランも、晴れて営業許可を取得して大繁盛していた。