理解困難な敵の正体
この手の作品では、コミュニケーション不可能な敵勢力の真実が、徐々に暴かれていく過程に謎解きのおもしろさが凝縮する。『シドニアの騎士』でもご多分にもれず、奇居子という敵はじつに不思議な存在だ。
まるい本体を胞衣(エナ)とよばれる外皮がおおっているのだが、きまった形をもつ生命体ではない。補食した人間や、ロボットの形を模写するものもいれば、奇居子同士で集合し惑星サイズの大きさになるものもある。ヘイグス粒子と呼ばれるエネルギー源などを攻撃してくる習性はあるものの、人間に対しての絶対的悪意があるのかどうかも定かではなく、果たして彼らの目的は何なのかすらも分からない。おまえたちは何なんだ!?(2)
SFの祖のひとり、H・G・ウェルズが『宇宙戦争』(3、斉藤伯好訳)を書いたのは、たしか1898年のこと。その後のステレオタイプとなる大きな頭と四肢をもったタコ型火星人がロンドンを襲撃し、その物語から人類と異生物の戦いは始まったわけだ。だが、相手に対する「わからなさ」を描いたという点では、スタニスワフ・レムのようなSF小説家の方が、シドニアの世界観には近いと僕は思う。