1959年から64年の間にレムが書いた『エデン』(4、小原雅俊訳)、『ソラリスの陽のもとに』(5、飯田規和訳)、『砂漠の惑星』(6、同)は、「ファーストコンタクト3部作」と呼ばれている。特に「ソラリス」はA・タルコフスキーやS・ソダーバーグによって映画化もされており有名だ。そんなレムの3部作では、異生物とのコミュニケーションの困難さがテーマとなり、人間の価値観や感情、理性は、他の生物にとって無意味どころか害悪になる可能性も孕(はら)んでいることを描き切った。相手をわかろうとする人間は、対象を知ろうと仮説を立て、対策を練るのだが、その果てに何が見えてくるのか…? シドニアの世界で、人類と奇居子の邂逅(かいこう)はあるのだろうか?
古くて新しい世界観
もうひとつ、『シドニアの騎士』の魅力として、「古くて新しい」という側面が挙げられる。細やかな設定や、キャラクターの造形など、どこかで見たことがあるという本歌取りの親和性を感じさせながら、それがこの作品ならではの世界観に新しく昇華されているのだ。
人類の命運をかけた宇宙船といえば『宇宙戦艦ヤマト』を思い浮かべる人は多いだろうし、急に現れた天才パイロットが白銀の機体を操縦するとなると、ある世代以上は『機動戦士ガンダム』を想起しないわけにはいかない。最初に現れた奇居子(ガウナ)は『風の谷のナウシカ』における巨神兵にも見えなくもないし、そこから伸びる触手は、腐海の植物の菌糸を思い起こさせる。