消費者物価と雇用者報酬の推移(1997年~2013年)。※各年12月【拡大】
平たく言えば、消費増税分を価格に転嫁するついでに、増税分よりもっと値上げする企業の行動が脱デフレにつながるのではないかと、期待するわけだ。東大の渡辺教授見解なるものまで引用し、しかも「デフレ脱却の契機を与えているという解釈も可能かもしれない」という二重、三重の逃げまで打っているところをみると、確固とした学術的考察でもなさそうだが、「値上げ=脱デフレ」という思考は隠しようがない。そんな経済学のレベルだから、大学で教育を受けた官僚が「増税値上げで脱デフレだ」と言ってはばからないのも無理はないだろう。
拙論がこうした官、学のエリートたちを批判する主たる根拠はケインズというわけではない。日本の慢性デフレというものを、「物価下落をはるかにしのぐ速度で勤労世代の報酬が下がっている状態」とかなり前から定義してきたからである。
グラフはそれを示す。1997年度の消費増税で消費者物価は上昇したあと、98年末からじわじわと下がり続けてきたのが、2007年にいったん下げ止まった後、08年のリーマン・ショック以降、再び下落し、「アベノミクス」が始まった13年に上昇に転じた。13年の物価水準は97年に比べて3%弱の下落幅にとどまる。だが、それでも「デフレ」は続いている、と拙論は断言する。雇用者報酬のほうは16年前に比べて10%余りも縮小しているのを重視するからだ。