消費者物価と雇用者報酬の推移(1997年~2013年)。※各年12月【拡大】
物価、雇用者報酬とも少しずつ上向いているではないか、と指摘する向きもあるかもしれない。しかし、物価上昇分を名目賃金から差し引いた実質賃金はこの1~3月期は、前年同期比1.8%減と下降が続く。春闘によるベアも大企業ですら1%に満たないし、消費増税分を加えた物価上昇率は日銀政策委員会見通しで今年度はプラス3.3%に上る。物価の大幅な上昇の半面で所得がわずかしか増えない家計が、消費に回せる金は減る。家計がそれを実感し出すと、企業は需要減に直面し、価格を下げるようになる。値下げしてもいったん低下した市場シェアを回復できず、利益減の割合は値下げ率をはるかに上回る。企業はそこで賃金や雇用を減らすようになる。これが、97年度の消費増税から1年以上たった後から始まった日本の慢性デフレの実相である。需要が弱い環境下での値上げは官僚や教授たちが言うように脱デフレの契機になり得るのではなく、その逆で、デフレを加速させるきっかけになり得るのである。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)