ご理解いただきたいのは、これが成熟した日本料理の世界に限定されたことではないということだ。皆さんの中には、出来合いのご飯を買ってきて食べるのが精いっぱいというような忙しい日々を送っておられる方も多いと思うが、であれば尚更(なおさら)のこと、紙容器やプラスチックトレーから直接食べるのではなく、きちんとした絵皿に盛り付け直すことによって、どれほど充実した食事になるかを試していただきたい。そうすれば、器に盛り付けることは、単なる手間ではなく、日々を充実したものへと変化させる効果的な行為であるとご納得いただけるだろう。
このような文化は、物資も寿命も情報も今よりもはるかに限られた時代において、日々の充実を貪欲に探求した先人たちからもたらされた贈り物であるように思われる。私自身、今日もまた、優しさの込められた器で美しい自然の恵みを食せることに、素直に喜びを感じる。皆さんにも、食事を楽しむ喜びと豊かな心をぜひ思い出していただけたらと思う。(企画プロデュース会社「丸若屋」代表 丸若裕俊/SANKEI EXPRESS)