【本の話をしよう】
警察小説の名手・堂場瞬一さん(51)が新刊『グレイ』でピカレスクロマンに挑んだ。希望に満ちた青年が、恐ろしいわなに引きずり込まれる。「堂場新時代」の始まりを告げる意欲作だ。
1983年、東京。バブル前夜の日本では、情報がカネを生む時代が幕を開けようとしていた。大学2年生の波田(はた)は、卵焼きとコメだけで夕食をすますほど、日々の暮らしにきゅうきゅうとしていた。ある日、たまたま街頭調査バイトの求人チラシを受け取ったことから、人生が大きく動き始める-。
「負の成長小説」
作品の時代背景は、自身の青春時代と重なる。「昨年、50歳になったんです。人生の節目を迎えて、20歳ぐらいのことを思い出すことが多くなった。この時代は、まだITが出てきたばっかりで、世の中を変えるという実感なんてなかった。何かがうごめいているんだけれど、その正体がなんだかよく分からない。社会が一気に大きく動き出す前の、モヤモヤした時代でしたね。カネが絡んだ犯罪が増えてきたのも、このあたりからだったんじゃないかな」