【本の話をしよう】
『自遊人』(1)という雑誌が好きでよく読んでいる。食べ好き、旅好き、温泉好きの僕にとっては、つぼにはまる特集が多い。そして、雑誌の作り手の顔が見える姿勢にも安心と共感を覚える。これだけ多くの情報が日々流れるなか、主語を全開にした確かな情報にだけ、時間を割く自分でいたい。
編集部を新潟へ
その『自遊人』の顔である編集長の岩佐十良(とおる)さんが、またユニークな方なのだ。けっこう思い切りのよい人なのか、2004年には東京・日本橋にあった編集部を新潟県・南魚沼に引っ越し。米づくりを学ぶために関わるようになった土地に生活の軸を移し、雑誌編集だけでなく、その地でつくられた作物を企画、加工し、販売するシステムをつくったりもしている。「メディアは発信する情報に最後まで責任を持つべき」という理念を地で行く、カラダ中心の思想家が彼なのかもしれない。エリック・ホッファーはサンフランシスコの湾港で沖仲仕をしながら哲学を研ぎ澄まし、山尾三省は屋久島で百姓をしながら詩を書いたのだが、岩佐さんは南魚沼で米を作りながら、メディアの在り方を考え続けるというわけだ(2)。
一方で、彼の著書である『一度は泊まりたい有名宿 覆面訪問記』(3)は、僕が次の旅先を夢想するとき、じつに愉しく読めるプラクティカルな1冊だ。