蟹頼み、牛頼みを筆頭に、調理の質より、素材の有名性に頼った宿にがっかり。部屋のテラスに露天風呂をつくっておけばモダンだと信じ、平気で料金を上乗せしている宿にしょんぼり。バトラーサービスは人員の配置問題だと思い込み、オーダーをかなえることより駆けつけることに力点を置いてしまっているホテルにもがっくり。ついでにいうなら、テレビの裏や部屋の四隅が汚い宿は逃げ出したくなります。
うるさい客といわれても仕方ないけれど、宿の主になめられたまま高い料金を素直に払い続けるゲストにはなりたくない。勘違いのセンスに払うお金も惜しい。宿という場所は家から離れた場所で風雨をしのぎ眠るだけでなく、それぞれの地場の鏡であってほしい。そして、自分にとっての安らかな非日常であってほしいのだ。
自然と心地よく
そして話は『自遊人』に戻ります。じつは編集長の岩佐さん、このほど旅館経営をはじめたというではないか。本当に思い切りのよい人である。宿の名は「里山十帖」。新潟・大沢山温泉の廃業した旅館を譲り受け、2年弱の時間をかけてリノベーションを行ったそうだ。
東京駅から68分で越後湯沢駅に到着。そこから車で30分程の山上に「里山十帖」はあった。雪国の降雪の厳しさを伝える母屋の大きな柱は築150年という歴史と降雪、両方の重みを感じさせるものだった。