「あさば」や「俵屋旅館」、「二期倶楽部」など、ある美意識が徹底的に貫かれた宿の紹介もあれば、一泊1万円台ながら不思議と気持ちよい「鶴の湯温泉」、「三水館」、「向瀧」などの小さな宿も並列に紹介。そして、この宿のレビューがじつに率直でうなずく部分が多いのだ。食事で出されるひと皿ひと皿の料理や温泉の質、料金明細書の細かい部分にまでしっかり言及。これ以上主語の立った本音の宿評はなかなかないだろう。彼の偏りと自身の偏りがうまく合えば、とても心強い1冊になるはずだ。
地場の鏡であれ
ところで、その訪問記や『自遊人』の宿屋紹介を読んでいても思うのだが、近ごろ心地よいと感じる宿もずいぶん変わってきた。僕自身も国内外への出張が多い仕事なので、知らない土地に行くのなら泊まる場所にも予算の範囲内でこだわりたいとは思っている。たまには自腹でいいから、憧れの宿にも行ってみたい。で、かなりのお宿経験値をため込んできた結果、最近僕は気づいてしまったのだ。なんとも乱暴でわきのしまっていない宿が多いことに。