彼女の勤めている部署の同僚は穏やかな人達ばかりで、気兼ねする必要など全然ないのに。不動産屋と話している間も、なぜか気になって、もしかしたら自分が小さな頃からショートケーキの苺(いちご)をずっと最後まで取っておくのが好きなことと、この問題はすごく似ているかもしれない、と彼女は考える。いっそここらでぱあっと使ってしまおうかと思うが、実際自分がそんなことをするはずがないと本当は分かっている。彼女は苺の乗っていないショートケーキを、今まで一度も食べたことがないのだ。
今朝、いつも通勤で使っている駅の前で、街頭インタビューというものを生まれて初めて受けた。自分の答えが「消化率0%」の欄にチェックされるのを見て、彼女はそれで終わりなのかと会社に歩き出したが、追いかけて来た男は再び自分を呼び止めた。すみません、休まない理由も教えていただけませんか?
彼女は少し考えたあと、「ショートケーキの苺を取っておく種族の末裔(まつえい)だからです」と答えた。