「あっ、来た! あっちからも、こっちからもジンベエザメが来るよ!」「下にはマンタもたくさん泳いでる!」
巨大な海洋生物に囲まれて、水中マスクをかぶった10歳の長男、海友(かいと)が、興奮しながら水面に顔を出し、うれしそうに私に向かって叫ぶ。その直後には、臆することもなく、その巨体に少しでも接近しようと小さなフィンをキックして、スキンダイビングを試みた。「ずいぶんたくましくなったな」。息子の成長ぶりに思わず目を見張った。
2013年7月、メキシコのユカタン半島にあるリゾート地、カンクンの沖にあるムヘーレス島に家族で滞在して撮影を行った。狙ったのは、世界最大の魚、ジンベエザメの大群だ。
一匹に遭遇するだけでも大興奮する、ダイバーが最も会いたい海洋生物の一つだ。それが、ここでは、いけすに飼われているかのように、海面に背びれと尾びれを出して、うじゃうじゃと泳ぎ回っている。その数、少なくとも300匹以上。
なぜこんなに集まるのかというと、この時期に、この海域でカツオの大産卵が行われ、プランクトンやオキアミなどを主食とするジンベエザメは、その卵を食べに集まって来るのだという。実際、海に入って泳いで、ボートに戻ってくると、身体のそこかしこに、半透明のつぶつぶした、カツオの卵が付着しているのに気づく。