ところで、戦艦ミズーリに赴く前、重光は歌を詠んだ。
「願くは 御國の末の 栄え行き 吾名さげすむ 人の多きを」
降伏文書の署名役という屈辱を一身に背負った重光は、やがて祖国が再び栄え、署名した自分を軽蔑する国民が増えるよう願いを込めたのだ。
祖国復興は成り、重光の悲願は達成された。ただし、重光が外交官人生を賭した、中国への不干渉など「亜細亜の国々」相互による主権尊重関係の樹立、即ち《対支新政策》→《大東亜新政策》は未完のまま。日本はじめアジア各国に対し、中国が内政干渉や主権侵害をやめない限り、完結はしない。
泉下の重光は、中国再建支援まで視野に入れた自らの政策を、いかに総括しているのだろう…。(政治部専門委員 野口裕之)