≪カリブーに共感せずにはいられない≫
この蚊に最も悩まされるのがカリブーではないだろうか。大発生した蚊の群れは四六時中カリブーにまとわりつく。草を食(は)み、休息をとる余裕も与えないほど、群がり、追い回し、血を吸い続けるのだ。弱ったカリブーの中には、衰弱し、そのまま息を引き取るものもいるほどだ。
もちろん人間も獲物とされる。呼吸と共に鼻の穴から蚊が入るほど、全身が覆われることもある。
そんな猛襲にどう対抗するのか。1940年代にアメリカ軍のために開発された蚊避け薬がある。実に2万種類もの化学物質をテストして作られたその薬品はDEET(ディート)と呼ばれ、現在でも極北を旅する人々の必需品となっている。蚊の触覚を不能にする効果があるという。
だが劇薬であるため、最小限の使用が望ましく、場合によっては肌がただれてしまうこともある。結局、程度の差こそあれ、蚊の餌食になることは避けられないのである。