(町田康さん撮影)【拡大】
知らないことも活用
けれども。世の中というものは、世間というものは、それなりに鞏固(きょうこ)なもので、若死にすればよかったのかも知れないし、そうすべきだったのかも知れないが、なんとか生き延びているうちに、船底に貝殻や蛎殻(かきがら)が着くように常識や良識というものが、知らず知らずのうちに付着してしまい、けれども心棒がそもそも傾いているので、それを活用することもできずに変な風にこじれてしまい、困っていた。
そんなとき、この、『繁栄の昭和』を読んだ、読み狂人は、わはは、助かった。
小説を書く場合、自分の知っていること。体験したこと。見聞したこと。が、その小説の題材に含まれると、どうしても、こころこごろ、漢字で書くと、心心に流されて、風情とか情緒とかが生まれ、その情緒が濃厚であればあるほど、世間的、というのは、文学的な世間も含むのだけれども、尊ばれるのだけれども、筒井康隆はそんなものとは無縁で、そのこと、というのは知っていること、と同時に知らないことも、最大限に活用して、異界としての昭和を描きまくりたくって、読み狂人の人格をいい感じに破壊してくれた。