細い路地にみやげ物屋などが並ぶ基山街と、古い茶芸館(中国茶カフェ)が軒をつらねる急な石畳の階段が散策のメーン。外国からの観光客も多く、坂道ですれ違う人々の間にいろいろな国の言葉が飛び交う。私たちが訪れた日はあいにくの雨だったが、傘をさしながらぬれた石畳を踏みしめると、まるで日本の古都を歩いているような不思議な感覚におちいった。
ガイドブックには「台北市内から1時間で行ける日帰りスポット」とある。
「でも、それではもったいないですよ。この街に残る古き良き時代の面影は、観光客が帰路につき始める夕暮れどきに色濃くあらわれますから」
そう話してくれたのは、私たちが宿泊した民宿「九ふん小町」の日本人経営者、高野誠さん(51)だ。7年前に移り住んで日本食の店を始め、以来この町の変遷を見つめてきた。民宿を開いたのは2009年。日本語が流暢(りゅうちょう)な奥さんの秀卿(シュウケイ)さんとともに、日本からの宿泊客も数多く受け入れている。赤い暖簾(のれん)をくぐって格子戸をあけると、出迎えてくれるのは障子や畳をしつらえた純和風の空間だ。バルコニーのある部屋から、晴れた日には東シナ海や基隆山が一望できる。台湾の民宿は素泊まりが基本だが、九ふん小町では朝食(和食)も提供していて、これを目当てに訪れる台湾人ゲストも少なくない。