別の少女、同モチーフ
そのときに制作した「ファントム・リム」に、小谷は震災後もう一度、挑むことで、作家として再出発しうる地点を探そうとしたのだろう。が、同作はもともと少女をモデルとする写真作品である。当時の人物はすでに成長してしまっていて使えない。小谷は新たに別の少女を選び、モチーフはまったく同一ながら、少しだけ心境の変化をそこに施した。初作のときは完全にコントロールしたポーズや表情の指定を、本人のなすがままにまかせたのである。
執拗(しつよう)なまでの完璧主義者で知られる小谷にとって、これは大きな変化だ。ぱっと見にはわからないかもしれない。が、そこには制御不能な「なにか」を許容する心の表れがあった。震災という人智を遥(はる)かに超える出来事を経ることがなかったら、小谷はきっと、そんなことには頓着せず、前と同じことを繰り返していたかもしれない。言い換えれば、震災のあとでは偶然や制御することの難しさを取り込まない限り、もう作り続けることなどできない自分に気付いたのだろう。