冒頭から「これはお芝居だぞー」と言わんばかりの導入シーンにわくわくする。エキゾチックで戯(おど)けたような音楽とともに雷の音が鳴り響く。ヨーロッパの寂れた町に土砂降りの雨が降る。観客は、足のない幽霊に抱えられたようなカメラワークで雨の並木道を通り、「シアター」という看板だけがある古い劇場の扉の中へ誘われる。
次第に「支配」される展開
新作舞台の主演女優を探すオーディションを終えたばかりの演出家トマ(マチュー・アマルリック)が携帯電話に不満をぶつけている。「35人も会ったのに馬鹿(ばか)で下品な女優ばかりだ! 知的で妖艶で滑舌もいい女優はいないのか! 僕がストッキングはいて演じたいくらいだよ!」。どうやら好みの女優が見つからず機嫌が悪いらしい。そこへ、ズブ濡(ぬ)れの女ワンダ(エマニュエル・セニエ)が現れる。「随分遅刻しちゃったけど、私はイイ女優よ。名前は役柄と同じ、ワンダ。今日は朝からいろいろあってやっとたどり着いたの、オーディションをしてちょうだい」と厚かましくトマに迫る。トマは、コートを脱ぎながらまくし立てるワンダに呆(あき)れながらも「SM的な衣装」に身を包んだ彼女にくぎ付けになる。