マスターはお客さんに自分の意見を押しつけたり、私生活に干渉するわけでもなく、いつも静かに聞き役に徹している。お客さんにすれば、そんなマスターの心遣いが心地いいから、つい足を運んでしまうのだろう。「ときにマスターは幻であり、空であるときがあります。それでいて確固たる存在感もあります。言ってみれば、半透明人間です。でもお客さんは何かを感じて、店を出ていく。僕は小林さんに対しては『彼らの背中を押してうまく再出発させてください』という気分でいつもいました」。松岡監督は演出の基本スタンスを説明した。原作とテレビドラマで描かれなかったマスターの普段着姿にもそのスタンスは徹底されており、松岡監督は衣装合わせで「色を出さず、個性的なものを避ける」との方針を貫いたという。