パズルのような構成
テレビシリーズと映画編の違いはどこにあるのだろう。小林の解説が実に印象的だ。「テレビドラマは約30分の放映時間の中に起承転結がしっかりと存在していて、われわれがそのように差し出さないと、視聴者は納得しないんです。でもこの映画は起承転まで描いてますが、実は結がない。僕はそれを『映画的余白』ってよく言うんです。もっとも『ちゃんと結まで描かれました。では、はい終わりです』では映画になりません。感心するほど、この映画はそこがよくできています」。小林は映画を見る者にそれぞれの「映画的余白」を味わってほしいとの思いが強い。
脚本を共同執筆した松岡監督は物語の展開の仕方に手を焼いたそうだ。「30分の話を単純に3~4話まとめて数珠つなぎにするだけという安易な手法はもちろんできません。いろんなエピソードを織り交ぜながら、いわば一つの物語として、物語の最後に深夜食堂ならではの読後感に着地させなければならないのです。そのためにはどんな順番で語り、どれほどの長さにし、どれほどのさじ加減で描くのか…。ジグソーパズルをはめていくような複雑さがありました。ちょっと珍しい構成だとは思いますよ」。これに対し、小林は「お客さんが食堂に忘れていった骨壺の描き方を見てほしい。なかなか物語は緻密(ちみつ)に計算されて作られていますよ」と言葉を継いだ。