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【溝への落とし物】「わだかり様」の話 本谷有希子 (2/4ページ)

2015.1.26 15:45

生まれて初めて彫った、未(ひつじ)年の芋判(本谷有希子さん撮影)

生まれて初めて彫った、未(ひつじ)年の芋判(本谷有希子さん撮影)【拡大】

  • 劇作家、小説家、演出家、本谷有希子さん(本人提供)

 何もこんな時に写真なんか撮らなくてもと思ったが、気づいたときにはカメラが向けられ、思わずつられて、その場にあったグラスを手に取った。あとから「みんな、いい感じに映ってるよ」とその携帯電話が回ってきたので、のぞき込むと、私たちがまるで心から打ち解けあった親友であるかのように笑っている。幸せそうで、楽しそうで、とてもこの場を持て余しているなんて信じられないではないか。

 写真が吐く嘘

 写真は詐欺師のように嘘を吐くのだ。その嘘がまんまと出来上がる瞬間を、この目ではっきりと見てしまった私は、早々にその場を退席せずにはいられなかった。

 けれど、なぜ嘘を吐くのがいけないのか、そこが自分の中でもまだうまく説明できない。写真を映す、その場より楽しく見える。その、何が一体嫌なのだろう。そんなことで誰かに迷惑がかかるだろうか。誰だって自己演出くらいしている、だからこれは私が納得しなければならない話なんだなと考えると、頭に網をかけられたように、思考が止まってしまう。その網を振り払ってくれるのが、「わだかり様」だ。「わだかり様」は米粒よりも小さいけれど厳しくて、嫌な理由を考え続けろ、と仰るのだ。

厄介な「堂々めぐり」

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