夜の東京・両国。冷たい風が吹き抜ける。両国橋を目指して歩いていく。若い2人の女性が立ち止まり、なにやら、驚嘆したかのように言葉を交わしている。なんと。店頭にイノシシがつり下げられているではないか。ここだ。獣肉料理店。ももんじや。
創業は1718年。江戸時代から続く老舗だ。正式な屋号は「ももんじや・豊田屋」という。豊田屋は当初、漢方の薬屋だった。薬の一種として売り始めたイノシシが好評で、料理店に転じたと伝えられる。
ももんじとは、百獣(ももんじゅう)から派生した言葉という。江戸時代、獣肉を扱う料理店では、屋号の前にこの言葉をつけていた。
当時、肉食は、はばかられた。イノシシは「山クジラ」と称し、江戸っ子たちに親しまれていた。
2階に上がる。座敷には親しい仲間が集まっていた。まずは、ビールで乾杯。イノシシ鍋が煮えるのを待つ。
店の女性に聞いた。
――この肉は、どこから仕入れたのですか
「丹波篠山(兵庫県)でございます。猟師が捕らえた野生のイノシシです。昔から、とてもおいしいと評判です」