胸の高鳴りを抑え、彼の登場を待ちました。
1月8日。私は大阪へ飛びました。鳥谷敬(とりたに・たかし)選手のインタビューのためです。メジャー移籍を断念して阪神に残留。5年の大型契約を発表する会見の直前に、彼が貴重な時間を割いてくれることになっていました。
海外フリーエージェント(FA)の権利行使から約2カ月。日本シリーズを最後にメディアの前で固く口を閉ざしていた彼が初めてカメラを前に口を開く-。なぜ、メジャーではなく、阪神残留だったのか。その答えを探るため、彼の表情に注目していました。扉が開き、鳥谷選手のすがすがしい表情と笑顔を目にした瞬間、私は「よかった。まだ夢は続いているんだ」とうれしい気持ちになりました。
鳥谷選手といえば、感情の読み取れない表情と落ち着き払ったプレーぶりが独特で、不気味なほどの迫力を感じていました。その彼が見せたあのときの表情は、キャスター人生で初めて目にしたものでもあったのです。終始、穏やかな表情で話す鳥谷選手のインタビュー。心に最も残った言葉は、「大リーグ挑戦を諦めることができて良かったよかった」という表現でした。「諦める」に続いたのは「悔しい」や「残念」ではなく「良かった」という言葉でした。残留発表時に球団を通して出したコメントにあった「熟考に熟考を重ねた結果…」は、悲観的な選択ではなかったと確信できました。